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KAGRA、ついに始動直前!ということで、重力波を作ってみた!?

印刷用ページを表示する掲載日:2019年10月7日更新

ニュートリノ!…じゃなくてジューリョクハ!

サイエンスコミュニケーターの高知尾です。

 

カミオカラボでも模型を展示している重力波望遠鏡KAGRA(カグラ)が完成し、10月4日に富山で完成記念式典が催されたとの報道がありました。年内に本格的な観測が始まる予定とのことで、すでに観測を始めているアメリカのLIGO(ライゴ)2台、イタリアのVIRGO(ヴィルゴ)1台と合わせて4台目となります。地球上に、広く散らばったこれらの重力波望遠鏡のデータを合わせることで、重力波が宇宙空間のどの方向から来たかが明らかになるということで天文学の大きな発展が期待されています。今回の式典では、これまでKAGRAとはライバル関係でもあったLIGOとVIRGOを含めた3者が研究面で協力していこうという調印式も執り行われました。

 

さて、KAGRAそのものについては他の多くの新聞やニュースでも扱われていますので、今回はKAGRAがまもなく捉える「重力波」を身近なもので再現するミニ実験を行って、その性質を身近に感じてみようと思います。

 

と言っても、本物の重力波を実際に観測できる程度に生み出すには星一つ動かせるくらいのパワーが必要なので、家から仕事場まで徒歩5分の行き来を繰り返す運動不足の私には無理です。

 

そこで、宇宙空間に似た空間を再現し、その中で重力波のように振る舞う現象を起こすことで、その様子を観察してみたいと思います。

 

今回、宇宙空間を再現するのに必要な材料は以下の3つです。

・伸び縮みする布

・布を張るための円形枠

・布を留めるためのクリップ

 

ご家庭にあるもので代用しても良いのですが、布だけはうまくいくものといかないものがあるようです。

 

さて、3つのアイテムを使って布を少し張った状態で固定したら、即席宇宙の完成です。

 

即席に作った宇宙

直径90cmの「即席宇宙」の完成

 

想像してみてください。まずは、この即席宇宙の真ん中に鉄球を置いてみます。鉄球の重みで布が少し沈みますね。そして鉄球の中心を少し外すように狙ってビー玉を転がし入れてみます。どうなるでしょうか?

 

鉄球のまわりを回るビー玉

 

ビー玉は、鉄球のまわりをぐるぐると回りましたね。だんだんと周回する半径が小さくなって最後には、鉄球にぶつかって止まってしまいました。

 

ここで、真ん中の鉄球は太陽だと考えてみてください。そうすると、まわりを回っているのは、水星とか金星とか地球とか… ですね。地球としましょうか。

 

この即席宇宙では、太陽(鉄球)の存在によって周囲の時空がゆが(布がたわ)みます。そして、ゆがんだ時空(たわんだ布面)に沿って地球(ビー玉)が回り続けます。

 

ちなみに、この即席宇宙では摩擦や空気抵抗があるため比較的早く太陽に落ち込んでしまいましたが、本当の宇宙では長い間回り続けます。

 

さて、今度は太陽の質量によってできたゆがんだ時空(たわんだ布面)に注目してみましょう。

 

ここで、問題です。このゆがみは、どうやってできたでしょうか?瞬時にできたでしょうか?それともゆがみができるのに、ある一定の時間がかかったでしょうか?

 

次の動画を見てみましょう。

 

布の中心を指ではじく様子(スロー動画)

 

今度は、指で即席宇宙の中心を弾いて瞬間的にゆがみを作ってみました。すると、そのゆがみは波として四方八方に広がっていきました。

 

そうです。これが(即席宇宙の中での)重力波です。

 

つまり、重力波とは

 

時空のゆがみが波のように伝わる現象です。

 

しかし、本物の宇宙が指で弾かれるなんてことはちょっと想像したくないです。

 

そこで、実際の現象に少し近づくために下のような装置を用意しました。

 

・電動ドリル

・2つのキャスターが付いた木片(ドリルに取り付けられるようになっている)

 

連星を作り出す道具  

電動ドリルとキャスター付き木片(※4月に公表されたブラックホールの写真を用いていますが、あくまでイメージです。)

 

まず、キャスター付き木片のキャスターの部分を即席宇宙に上から押し付けます。押し付けられた部分は下に沈むので、先ほどの鉄球2つを隣同士に置いたような状態になります。つまり、即席宇宙の中では2つの重たい天体が隣り合っている様子に対応します。実際の宇宙では、「中性子星連星」とか「ブラックホール連星」とかいうものが実際に存在しています。

 

しかし、2つの重たい星が隣り合っていたらきっとお互いの重力で引っ張られてぶつかってしまうでしょうから、このような連星はお互いのまわりを高速で回転している必要があります。

 

そう、電動ドリルを使うのはそのためです。

 

では、即席宇宙でブラックホール連星が回転する様子を再現してみましょう。

 

"連星"から拡がる波(スロー動画)

 

いかがでしたか?

 

重力波が、見・え・ま・し・た・ね??(威圧的)

 

見えなかった方のために、静止画で波の位置を記したものを載せておきます。

 

連星からの波を青線でなぞった写真

それぞれのブラックホールから出た波を青線で表しています。

 

2つのブラックホール(キャスター)がお互いに回転するとともに、そこから出た重力波(波)が広がっていく様子が見られるかと思います。

 

2016年2月に発表されたLIGOによる世界で初めての重力波の観測も、まさにこのような重い連星の回転によるものでした。最初の観測以降はしばらくブラックホール連星の観測が相次ぎ、さらに2017年8月には中性子星連星からの重力波の観測にも成功しています。

 

この重力波を地上で捉えて、その到来方向や波の大きさ、振動数の変化などから、そこで起こっている現象を推測していこうというわけです。

 

ところが実は、重力波を出している天体の方向は、1台の重力波望遠鏡では絞るのがなかなか困難です。そこで、複数の重力波望遠鏡で同時観測して三角測量の原理から重力波が来た方向を絞り込んでいくことが重要になります。そして、KAGRAが稼働すれば天球上の到来方向を現状からさらに数分の1に絞れる見込みです。

 

これまで見てきたように、重力波で見える天体は静止している天体ではなく、ダイナミックに動いている天体たちです。このような光景は従来の光学観測では見ることができません。重力波天文学が本格化し、さらに従来の観測方法と組み合わせることで、これまで見られなかった新しい宇宙の姿を見ることができるようになりますし、その中にはきっと人類の予想をはるかに超えるような現象もあることでしょう。

 

新しく完成した重力波望遠鏡KAGRA、そして世界を舞台にした重力波望遠鏡たちの連携に期待しましょう。

 

今回ご紹介したミニ実験のオリジナルはイギリスの人気Youtuberスティーブ・モウルド氏により行われています。こちらのリンクからご覧ください。<外部リンク>本家では非常にきれいに波が広がっている様子がわかります。また、私自身の前職で教えていただいたやり方も参考にしています。今回の即席宇宙では、布の端で波が反射してしまい中心から広がる波に干渉して波形が崩れてしまっています。よりうまく再現できそうな方はぜひ挑戦してみてください。


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