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東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設 広報担当の武長さんのインタビュー

印刷用ページを表示する掲載日:2019年3月17日更新

東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
広報担当 武長祐美子さん

神岡町での宇宙物理研究について、より詳しく知りたい人のために、スーパーカミオカンデを使って実験を行っている東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設 広報担当の武長祐美子さんにお話を伺いました。

 武長さんの正面を向いている画像

そもそもスーパーカミオカンデとは、どのような実験装置なのでしょうか。

―スーパーカミオカンデは、宇宙から飛んでくる素粒子・ニュートリノの観測装置です。
私たちの身の周りにあるものは元素、原子、原子核、陽子、電子など細かく分けることができます。これ以上細かくできない最小単位を「素粒子」といい、ニュートリノはその素粒子の一つです。
ニュートリノの大きさは、とても小さく人間の大きさの1億分の1の1億分の1の1億分の1くらい。重さもとても軽く、電子の重さをぞうの体重(約1トン)に例えると、ニュートリノは1円玉(1グラム)よりも軽くなります。

なるほど。では、そんなに小さなニュートリノをスーパーカミオカンデではどのように観測しているのですか。

武長さんが話をしている画像

―スーパーカミオカンデは、神岡町にある池ノ山の地下1000mにある直径約39m、高さ約41mの巨大な実験装置で、円筒形のタンクの内側に約1万1000個の光センサーが付いています。
タンクの中には、とてもきれいな純水が入っており、ニュートリノと水がぶつかった時に出る光を光センサーがとらえるという仕組みです。
このときの光の量などからニュートリノのエネルギー量や方向、種類などを調べることができます。

光電子増倍管を持っている人の画像
(写真提供:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

地下1000mという場所に観測装置があるのにも関わらず、ニュートリノを観測できるのはなぜでしょうか。

―結論から言えば、ニュートリノは電気的にマイナスでもプラスでもない中性だからです。
電気を持っている物体はぶつかってしまいますが、ニュートリノは電気を持っていないため、あらゆる物体をすり抜けていくのです。

では、ニュートリノは池ノ山をすり抜けて、地下の観測装置にやってきているということですね。

―そうです。ニュートリノは、池ノ山だけでなく、私たちの体をも通り抜けているんですよ。とても小さいため目には見えませんが、1秒間に数百兆個ものニュートリノが通り抜けています。

そんなに小さなニュートリノをスーパーカミオカンデではどのようにして観測しているのでしょうか。

―なんでも簡単に通り抜けてしまうニュートリノですが、ごくまれに水の分子に衝突することがあります。
そのときに発生するチェレンコフ光という光を、タンク内部の光センサーが捉えるのです。とはいえ、1秒間に数百兆個も飛んできているニュートリノのうち、観測できるのは1日30個ほど。
その個数を上げるために、5万トンの水が入るスーパーカミオカンデより大きなハイパーカミオカンデを現在開発しているところです。
ハイパーカミオカンデは、光センサーの数は4万本でスーパーカミオカンデの約4倍、タンクの大きさは26万トン、解析に使える有効体積は19万トンで、スーパーカミオカンデの約10倍になります。

タンクに入る水の量が増えることで、ニュートリノが水の分子とぶつかる回数も増え、よりたくさんのニュートリノを観測することができるというわけです。

満水のタンクの画像
(写真提供:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

ニュートリノを観測することで何が分かるのでしょうか。

―スーパーカミオカンデでは、3種類のニュートリノを観測しています。
1つ目は太陽ニュートリノ。これは、太陽内部で起こる反応により生まれるニュートリノで地球にたくさん飛んできています。
太陽ニュートリノを観測することで、太陽内部の活動を調べることができます。2つ目は大気ニュートリノです。大気ニュートリノは、宇宙の中を大量に飛び回っている粒子が地球の大気に衝突したときに生まれます。
ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章教授は、これを観測することで、ニュートリノに質量があることの証拠となる、ニュートリノが飛んでくるまでの間に姿を変えることを発見しました。
ニュートリノが飛んでいる間に姿を変えることを「ニュートリノ振動」といい、このニュートリノ振動をより深く研究するために人工ニュートリノを用いた実験が行われています。人工ニュートリノは茨城県東海村のJ-PARC加速器で作られ、スーパーカミオカンデに飛ばされています。
これら3つのニュートリノを研究することで、宇宙の起源を紐解くことができるのです。

ニュートリノは、宇宙の謎を解明するのに大切な役割を果たしているんですね。神岡町の山の中にスーパーカミオカンデが作られたのにはどのような理由があったのでしょうか。

池の山の画像
(写真提供:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

―池ノ山は、実験に必要なさまざまな条件が揃っていたんです。
まずは、水。スーパーカミオカンデは、5万トンもの純水で満たす必要があります。
山の中には大量の雪解け水があるので、水の中のイオンやバクテリアなどの不純物を極限まで取り除いて、実験に使用しています。次に硬い岩盤です。
池ノ山は飛騨片麻岩という硬い岩盤でできているため、地下1000mに大きな空洞を作っても壊れないのです。また、掘削の技術も大きな条件でした。
元々池ノ山は鉱山として機能していたため、掘削の技術を持った会社が操業していたのです。

池ノ山はまさにその条件を満たしていたのですね。では、スーパーカミオカンデはなぜ地上ではなく地下に作られたのですか。

―地球には、ニュートリノのほかに宇宙線という原子核や素粒子が高エネルギーで飛び回っています。
地上に実験装置を作った場合、これらの宇宙線が邪魔をして数少ないニュートリノを見つけるのは大変です。
地下1000mという深さになると、宇宙線は岩盤などに阻まれて地上の10万分の1までに減りますが、ニュートリノは、物体をすり抜ける性質があるため、山の中の方が効率的に観測することができるというわけです。

そのような理由で神岡町に作られたのですね。スーパーカミオカンデを使って、今後はどのような研究がされる予定ですか。

スーパカミオカンデで働く人たち
(写真提供:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

―2018年のスーパーカミオカンデの改修を経て、今後は宇宙のはじめから起こってきた超新星爆発からのニュートリノを捉えようとしています。
タンクの純水の中にガドリニウムという物質を溶かすことで、過去の超新星爆発で放出されるニュートリノを見分けることができるようになるのです。

宇宙の誕生以来、宇宙空間に蓄えられてきたニュートリノを捉えることで、星が作られてきた歴史や、私たちをはじめとする物質の起源を探ることができるのです。
また、スーパーカミオカンデでは陽子崩壊の研究をしています。私たちの体や身の回りの物質は原子によって形作られており、この原子の中心には原子核があります。

原子核は陽子と中性子でできているのですが、陽子には寿命があり、いつかすべての物質は崩壊してしまうと予言されているのです。これは大統一理論という物質の仕組みを根本的に説明する理論で予言されているもので、
スーパーカミオカンデやさらに巨大化したハイパーカミオカンデの純水中にある陽子を監視することで、大統一理論の検証や物質の根源や宇宙生成時の謎に迫ることができるのです。

 

ニュートリノは宇宙の起源や進化、これからの物理学の進歩など、大きな可能性を秘めた粒子なんですね。スーパーカミオカンデでのこれからの研究の成果が楽しみですね。


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