ニュートリノ!サイエンスコミュニケーターの高知尾です。ブログでは少しご無沙汰しているうちに、神岡町では雪がちらつく日が多くなり、布団から出にくい季節がやってきました。
東京オリンピック・パラリンピックというイメージが強い2020年が目前に迫る中、2010年代は終わりを迎えようとしています。
この10年間は「宇宙」や「素粒子」の研究分野で目覚ましい発展があった時代でもありました。そこで、今回のブログでは、2010年代の「宇宙・素粒子」に関する研究成果を時系列順に振り返ってみたいと思います。
中には読者のみなさんがよく覚えている出来事もあるのではないでしょうか。
今回は前編です。それでは行ってみましょう!
はやぶさが最後に見た地球の姿(Credit: JAXA)
2003年に打ち上げられた探査機「はやぶさ」は、小惑星「イトカワ」表面から岩石試料を持ち帰り、2010年6月13日に大気圏に突入しました。採集された試料はごく微量でしたが、地球と月以外の天体表面からの採集は世界初のできごとでした。またその後の分析によって、「地上に落下する隕石の主なふるさとは小惑星である」と証明することに成功しました。大気圏に突入して燃え尽きる機体に切なさを覚えてしまった方も多いのではないでしょうか。
ヒッグス粒子の発生をシミュレートしたイラスト(Credit: Lucas Taylor/CMS)
現在では、世の中には17種類の素粒子(それ以上細かくできない根源的な粒子)があると考えられています。1897年に1つ目の素粒子である電子が発見されて以来、研究者による数々の理論的研究や観測が積み重ねられてきましたが2012年7月4日に欧州原子核研究機構(CERN)の実験グループによってとうとう17個目の素粒子「ヒッグス」の発見が報告されました。これで、素粒子探索の歴史に一応の一区切りがつけられた形となりました。しかしながら、宇宙全体を眺めてみるとこれらの17種類の素粒子だけでは説明できない現象がいくつか報告されています(例えば暗黒物質とか!)。どうやら素粒子論の完成にはまだ少し道のりがあるようです。
日本では東北地方に国際リニアコライダー(ILC)というヒッグス粒子を大量に作り出す装置の作って新しい兆候を探すことも検討されています。次の10年で更なるブレイクスルーはあるのでしょうか。
重力波が発生するイメージ図(Credit: LIGO)
1915年にアルベルト・アインシュタインによって存在が予言された「重力波」がちょうど100年後の2015年9月14日にアメリカの重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)によってついに観測されました。発見を報じる記者会見では、LIGOグループの責任者が「We did it!(私たちはやり遂げたのだ!)」と宣言したのが印象的でした。日本では、来年初頭から独自の重力波望遠鏡KAGRA(カグラ)での重力波観測がスタートします。始まったばかりの重力波天文学は今後、研究者の想像をも超える新しい観測結果をもたらしてくれるかもしれません。
エンケラドスから噴出する水蒸気(Credit: NASA)
地球外生命体の探索を勇気づける報告も多くなされた10年でした。2013年には木星の衛星「エウロパ」の地下に液体の水があることを示唆する報告が相次いでなされました。2020年代中盤にはエウロパからの噴出物を調査するNASAの探査機「エウロパ・クリッパー」の打ち上げが予定されています。
また、以前から地下に液体の水があると考えられてきた土星の衛星「エンケラドス」ではさらに一歩進んで、地下の海に熱水環境があるらしいことが2015年に明らかになりました。海底の熱水環境は生命を育みうる環境として注目されており、地球でも生命が最初に誕生した場所として有力な候補になっています。
さらに、私たちのお隣の惑星である火星では、少なくても昔は液体の水が存在していたと考えられています。そこへ近年になって、水が最近流れた跡らしきものが見つかったり、地下の湖の存在をうかがわせる観測がなされたりと、期待が膨らんでいます。2020年代前半にNASAが計画している無人探査機による調査で、過去の生命の痕跡を見つける可能性も、あくまでも可能性ですがあるでしょう。
いかがでしたでしょうか。みなさんにとって最も印象深い発見や研究はどれでしょうか?
このブログは後半に続きます。次回もお楽しみに!