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ニュートリノの研究と私たちのつながり

印刷用ページを表示する掲載日:2019年6月28日更新

こんにちは!サイエンスコミュニケーターの高知尾です。

 

6月は計4回、FM GIFUのラジオ番組に電話出演させていただきました。

1回目はカミオカラボについて、2回目はスーパーカミオカンデについて、3回目はニュートリノについて、そして4回目はこれらの研究がどのように役立ってくるのかについてお話しさせていただきました。

 

初回はしっかりと想定回答を台本で用意して臨んだのですが、その後徐々に会話調へとシフトしていきました。たしかに、その方が楽しかったです。しかし、伝えたいことを限られた時間でお伝えするのはなかなか難しく、ラジオの司会者はすごいなぁと感心していました。

 

特に、ニュートリノの研究が私たちにどのようにつながっていくのかという最終回での問いは、カミオカラボでも来館者からしばしば聞かれます。

今回は、この問いについて現状での私の考えを書いていきたいと思います。

これらは私自身がこれまでに読んだ記事や見聞きした発言を元にした個人的な考えであり、今後変わっていく可能性もあります。

 

まず、ニュートリノの研究は近い将来(10年後とか20年後)に新しい技術を生み出すために研究されているわけではありません。

 

研究者はニュートリノという小さい粒子のふるまいを研究することで宇宙がどうやって進化してきたかに迫ろうとしていますし、なんでも通り抜けるというニュートリノのユニークな性質を利用することで星の内部や初期宇宙の様子を観測しようとしています。そこには、自然界に対する研究者の純粋な好奇心があります。

 

なので、「ニュートリノの研究は何の役に立ちますか?」と聞かれたら「(私たちの日常生活には)すぐには役に立ちません」と答えます。でも、必ず「ただし…」と付け加えるようにしています。

 

ただし…、

 

例えば、スマホやパソコンにとどまらずテレビや冷蔵庫、自動車など多くの電化製品で使われているエレクトロニクスの技術では素粒子のひとつである電子のふるまいを使って計算したり記録したりしています。しかし、電子が発見されたのは1897年のことなので、まだ100年余りしか経過していません。発見したイギリスの物理学者であるJ.J.トムソンは、早くインターネットでYoutubeを見たいから研究をしていたかというとそうではないでしょう。

現時点では日常生活で役に立たないニュートリノが100年後、200年後になくてはならない存在になっている可能性は十分にあります。それを想像してみるのもまた面白いかもしれません。

 

例えば、ニュートリノ自体が具体的に活用できる可能性としてはこんな例があります。

宇宙から飛来する超高エネルギーのニュートリノは地球のちょうど中程まで通り抜ける性質があるので、これを利用して地球の内部を透視できるかもしれません。誰も見たことがない地球の内部構造を予想するために、これまでは地震による振動の伝わり方を利用する方法が一般的でしたが、それを補完する形でニュートリノの利用が考えられており、実際に南極のIceCube(アイスキューブ)というニュートリノ検出実験で研究が進められています。以前にご紹介した「ミュオグラフィ」のニュートリノバージョンです。

 

世界一の研究を追い求める上で発展してきた観測技術が副産物として私たちの身近で活用されることもあります。スーパーカミオカンデの場合は、高感度な光センサーや水・検出器部材の純化技術が他分野で活用される事例は想像に難くありません。

 

さて、ここからは日常生活から視点を一気に広げて考えてみましょう。

ニュートリノの研究でノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章博士は同賞を受賞されたときにこの質問に対し、「人類の知の地平線を拡げていくような」意義があると述べられました。

私としては、とても腑に落ちました。様々な解釈があると思いますが、一度積み重ねられた(拡げられた)自然界に対する知の財産というのは人類が滅亡しない限り基本的には次世代へと受け継がれていくものだと思います。もちろん絶対的な正解というのはありませんが、新しい知はそれまでの知を前提にそれをさらに押し広げる形で生まれてきます。この知の財産による恩恵はうまく活用していくことで人類全体で共有していくことができます。

 

1961年、旧ソ連の宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンは人類で初めて宇宙から地球を眺めました。その後、人工衛星やカメラ、インターネットの発達などにより、私たちは宇宙から見た地球の姿を地球に居ながらにして共有できます。それによって、これまで幾度となく争ってきた各国・各地域の人間が実は同じ「宇宙船地球号」に共に暮らしていることを再認識させてくれました。大気や海洋のメカニズムを解明する地球物理学や、生物と環境のつながりを考える生態学などの基礎研究の発展も、私たちに環境問題や生物多様性という新しい価値観を提供してくれています。

冒頭では、ニュートリノの研究は100年後、200年後といった次世代の技術に貢献する可能性について触れましたが、それだけではなく「次世代の世界の新しい見方」をもたらしてくれる可能性があります。ニュートリノだけがということではありませんが、それを含めた学問の総体であればそのようなことは十分に考えられます。

 

しかし、とはいっても素粒子の実験にはたくさんの予算と人と時間を必要とするという傾向があります。一概になんでもやるというわけにはいかないでしょう。

 

どの研究をどこでどういう風に進めるのか。これを決めていくには研究者だけではなく本当は国民のみんなで考えていく必要があります。大変ありがたいことに、カミオカラボで来館者の方とお話ししていると、多くの方はニュートリノの研究について肯定的に捉えてくれます。しかし、国のお金を使うことでもあるので、興味のある人が進めて良いよと言ってくれたからそれでいいやというわけにはいかないでしょう。そこでは研究者自身や、私たちサイエンスコミュニケーターが研究の意義や魅力を様々な形で言語化し、発信していくことが求められていくことでしょう。そういった意味では、メディアの方が「基礎研究が何の役に立つのか?」という問題を提起してくれることは個人的にとても良いことだと思います。

 

幸いなことに、情報社会の現代では一般の方も気軽に最先端のサイエンスをリアルタイムに享受できる機会が多くあります。はやぶさ2のタッチダウン(着地)はインターネットにつながっていればほぼリアルタイムで成功の可否を知ることができました。ニュートリノや重力波についても、実は最新のデータをインターネットで誰でも簡単に見ることができます。(見る方法や見方についてはカミオカラボに来て頂ければ解説しますw)。「今のニュートリノだったよね??」とか、「やったぁ、私の誕生日に重力波来てる!」など一緒に盛り上がりましょう。

 

さぁ、みなさんはどう思いますか?

カミオカラボにご来館いただき、基礎研究の意義についてみなさんの考えを聞かせていただけたらとてもうれしいです。

 

ニュートリノさん


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